♪サル。ゴリラ、チンパンジー
犬。
宿に着くと、犬が吠えかかって来た。しかも四匹。ぶっ叩く用の棒を準備して恐る恐る向かって行くと、宿のおっさんが出て来てそれを仕舞って降りて来たらいいとか言ってる。
バカか、噛まれたらどうすんの。
だが、一度だけこのおっさんのことを信じてみよう、行かないと宿に泊まれないし。
犬が後ろから回り込んでくる。
やばい。
おっさんは、歩け、大丈夫だ! そのまま歩いてくるんだ!
って地雷原みたいなことを言う。
諦めて進むと、もはや数センチの距離にまで近寄って来た犬が自転車を引く俺の足に向かって、……ペロペロしだした。それとくんくん匂い嗅いでる。
なんなんだお前たち、ギャップでちょっとかわいいじゃねーか。
おっさんが寄ってきて、心配ねえよ、むしろその棒が問題だ、ここはホームか? って聞いてくる。なんじゃそりゃ、知らんけど今まで何回も他の犬に襲われてて、俺は今日ここで泊まろうとだな、って言ったら「いや待て、ここはホームかって言ってるだろ? どうなんだ?」
「だからそんなの知らねーよ、ゲストハウスじゃなかったの?」
「そのとおり。ゲストハウスの犬がお客さんに噛み付いたらどうなると思う? そうさ大問題さ。そんな犬がまさかいるなんて思うか?」
その説得、全然納得できないんだけど。
「それ因果の順序どうなってんの!?」
「だってただ鳴いてただけだろ。個人宅《ホーム》ならその場所を守るために噛む犬もいるだろう。でもここはゲストハウス、宿泊客や外国人を噛む犬はいない」
「牙見せて唸ってたし吠えてたじゃん、宿泊客の俺を怖がらせてたじゃん」
「まあ確かに犬が苦手な人がいるのは分かるけどな」やれやれだぜって風に言う宿のおっさん。
何で俺が悪かったみたいになってんの?
繋げや!!! タイ人!!!!!!
そんな不確定情報に命をかけられるか! せめて日本みたいに狂犬病を撲滅してから言え!! 鑑札下げて注射しろ!
それでもたしかに自衛のためとはいえ、俺は少々攻撃的になり過ぎていたきらいはある。寄ってくるときにこいつら尻尾を振ってたのも確かに覚えてる。そもそ俺は猫なんかより断然犬派だったのにも、かかわらず。
ダブルベッドの個室に700円弱で泊まれるしまあいいや、捨ておこう。
タイトルのメロディーの曲名はクワイ川のマーチ、戦場にかける橋のテーマ曲。
街に出ると、カンチャナブリには日本人にしか見えないタイ人がやたらと多い。
本当に間違えて日本語で喋りかけてしまいそうになるくらい。
なにこれ。ああ、きっとおいたをした兵隊さんの子孫たちなんだな。
立派な鉄橋を掛けに、また木造の予備の奴を準備する為にここには沢山の日本兵が駐留していた。
……何が清貧じゃい日本兵め。
神聖化しやがって、しっかりやることやってんじゃねーか、あっちの方も英霊でしたってか? うるさいわ。
こっちは巨大なベッドに一人枕を濡らして眠っとるんじゃ、かわいいわんこにさえ怯えながら。
頑張って作った橋でも落とされてしまえ。
戦場にかける橋、原作を書いた人はイチャコラする日本兵とタイ女性を見てそのルサンチマンからかの作品を作り上げたのだと邪推。
ルサンチマン、つまり社会不適合の子供がなろう小説(って言うニートが妄想の世界でちやほやされる系の話)書くみたいな。これ映画見た人ならわかってくれると思うんだけどなあああ。でもやっぱわっかんねえだろうなああああ